English

感染症ワクチンの開発

 

 人類は多様な微生物環境に常時晒されて生存を維持しています。ヒトの集団は感染淘汰を通して個体ごとに不均一な感染応答性を示します。微生物自体よりも宿主の応答性が感染症の主体をなしています。一方、ワクチンは「感染の2度なし現象」と「ジェンナー以来のワクチン」の文脈から経験的に語られてきました。ワクチンは抗原とアジュバントから構成されています。免疫応答は微生物を回避する本質的な仕組みとして成立したと言えますが、ワクチンに対する免疫応答は感染症ごとに個体差があり、ワクチンはアジュバントによるブーストが必要になります。また過剰応答が宿主に適正でない反応を誘起する副反応も存在します。感染症ワクチンにおいても高齢者・基礎疾患保持の患者にも使える安全性の高い汎用性アジュバントの開発が必須課題となっています。

 現在コロナワクチンをはじめとして、mRNAワクチンの開発が話題になっています。国の主宰する「100日ワクチン」プロジェクトなどもmRNAワクチンを謳っていますが、50%以上の接種者に発熱をきたし、3度射っても記憶免疫が定着せず、基礎疾患を増悪させるワクチンは開発に値するのかと考えます。この論理では接種回数を増やすごとに自己細胞(S蛋白発現)が免疫系によって破壊されるはずです。対照的に、抗原とアジュバントの成分ワクチンの優良性は歴史的な裏付けがあり、抗原そのものに毒性がなければ、副反応はアジュバントによる炎症応答に限られます。実際、多くのワクチン候補の認可を阻んでいるのはアジュバントの毒性によります。TLR3アゴニスト・ARNAXはこの問題を克服しうる非炎症性のアジュバントです。

 現在認可されているTLR3アジュバントは無く、polyI:Cとその誘導体がCOVID-19ワクチンの治験中です。PolyI:CはTLR3-TICAM-1経路以外に全身細胞の細胞質内RNAセンサー経路を活性化し、サイトカイン血症を起こします。故にこれまでがん・感染症の治験で棄却されてきました。一方、ARNAX はそのような副反応を起動せずにサルGLP試験まで安全性試験をクリアーしています。

 我々の提案は非炎症性アジュバント(炎症なしの免疫増強剤)を開発し、成分ワクチンを補完する方法を確立することです。安全なアジュバントを備蓄する体制を創れば、どんな感染症もそれに特有な抗原を組合わせることでワクチン化できます。将来的にARNAXは安全・汎用性の高いアジュバントとして種々の微生物抗原と成分ワクチンを構成が可能です。要事調整の成分ワクチンの体制を構築し得ます。

 炎症の副作用がないワクチンの創生は長年の社会的要請ですが、未だ達成できていません。我々はARNAXの開発を通じて汎用性の高い感染症ワクチンの開発に挑戦していきます。


図1. 感染症ワクチンの副反応はアジュバント次第で軽減できる(SARSワクチンの動物実験)
図1A 抗原(S蛋白)+ARNAXはアラムより高い有効性と低い副反応に結果する。
図1B 好酸球性肺炎はアラムで制御できないが、ARNAXで制御できる。
図2 ARNAXは抗原蛋白に拘らずTh1 シフトと細胞性免疫を起動する。